最後のおやつ

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(約1800文字)

 

11月の歓送迎会の後、やはりというか太ってしまった!

 

そこでちょっとよい宿泊先をご褒美として数か月先に予約しておいて、キャンセル可能なギリギリの日程までに目標体重に達していなければキャンセルするというつもりでダイエットをがんばることにした。

 

 しかし私の周りには恐ろしい障害が張り巡らされている…

A病院の医局には医局費から出ているお茶菓子コーナーがあって、そこをスルーするのは困難である。

 

そして、B病院では…

 

 ある日の朝の風景。

B病院の医局では、数人の医師が熱心にカンファレンスを行っていた。資料を配布し、プレゼンをする医師、あーでもない、こーでもない、と活発に意見が交わされる。

 

音声が聞こえていなかったら、そんな風に仕事熱心に見える朝の光景であるが、実際はお昼に食べるおやつについての話し合いが行われているだけであった。

 

「先週はチーズケーキだったから…」

ふるさと納税で取り寄せたアップルパイ、持ってきます」

「最近洋菓子ばかりだったから、そろそろアンコ系が恋しい頃だね…」

 

 そんなわけで、平和なB病院医局であった。

 

そして詰所にいくと看護師がコーヒーとケーキをそっと差し入れてくれる。

事務に行くと、事務員が手にアメやチョコを握らせる…

こんな環境で、どうやって痩せろというのぉぉ…!?

 

 

さて、先週はA病院は荒れていた。3人の患者さんが立て続けにお亡くなりになったのだ。

 

といっても例の感染症関連ではない。精神科の閉鎖病棟では、高齢者の割合が多い。そして、通常であれば他の一般科の病院に入院する必要があるような、癌など重い疾患を持っていても、暴れたり奇声を上げたりルールが守れないということで、他の病院での治療ができず、精神科の閉鎖病棟で一生涯を終える人がたくさんおられる。

 

 病院では、食中毒のリスクがあったり喉詰めリスクのあるものを食べることができないなど、何かと不自由が多い。これが1か月程度の入院であれば、その間の病院食が味気ないモノであっても、何とか耐えられるだろう。退院すれば再び好きなものが食べられるのだから。

 

ところが精神科病院では、行き場がないため退院が出来ず、長期入院を余儀なくされる人が多い。彼らが楽しみにしているもの、それはもちろんおやつである。週に1度のおやつをいそいそと購入する患者さん達。みんな子供のような笑顔になっている。

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 ただし、身体的に重症の患者さんはこれができない。患者さんによっては、嚥下能力の低下から誤嚥性肺炎を繰り返すため、あるいは中等度以上の糖尿病のため、口にするものが限られていたりする。

 

 悩ましいことだが、ここが病院という場所である以上は、摂取することで健康を損ねることが明らかなものについては、やはり制限せざるをえない。

 

 ところが、ある一定の状況下で、医者は「もう、食べたいものがあれば食べさせてあげてもよい」という方向に大きく舵を取る。死期が迫っており、積極的治療が困難な患者さんの場合だ。これまでだったらご家族がおられる方は、ご家族が本人の好きなものを差し入れに来て下さっていたが、ゴロニャのご時世になってから、面会が困難になってきた(必ず禁止ということではないが)。面会に来てくれる家族がおられるのはまだよい方で、精神科の入院患者さんは、家族から見捨てられたり、天涯孤独だったりという人も多い。そんな患者さん達が、最後まで好きなモノも口にできず、亡くなるのは切ないことだ。

 

 なので、A病院では、医者や看護師が、本人に直接尋ねたり、ご家族に電話で尋ねたりして、本人の食べたいものを買ってくる。大した出費でもないので、ポケットマネーでね。

 

 医者をやっていると、本人の状態や採血結果などから、死神のように、その人があとどれくらい生きるかだいたいわかることが結構ある。私の患者さんにも1人、そろそろ…という人がいて、ご家族に連絡をした。私が来週A病院に行った時にはもうおられないかもしれないため、コンビニで彼女の好きなプリン、ヨーグルト、アイスなどを購入し、詰所の冷蔵庫に入れ、看護師に託す。

 

ある人は、アンパンとコーラを飲んで「おいしかった!」と言って、逝った。またある人は、御座候(大判焼き)だった。詰所の冷蔵庫におやつを入れようとして開けると、冷凍庫にアイスが入っていた。他の医師か看護師が、他のある患者さんのために入れていたものだ。

 

 私は、自分の最後のおやつは何にしようかな…

 

 今日の動画



 ではまた。

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