【再掲】問題のある患者さんを泣かせてやる!(虐待宣言)

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この記事は、ちょうど1年ほど前に裏ブログに書いたので覚えのある方もいらっしゃるでしょう。1年でこの患者さんが、まるで別人と言えるほど変わったため、次回それについて書きます。

 

(約1700文字)

つい最近、私のある担当患者さんについて看護師たちとカンファレンスをした。統合失調症の60代男性Hさん。すべてにおいて拒絶的で誰とも話そうとしない。看護師が何かの処置や介助をしているときに、急にスイッチが入り、看護師を蹴り飛ばしたり、殴ったりする。何も言わずに素早く攻撃を繰り出すため、よけきれず受傷する看護師も1人2人ではない。「なんとかしてくださ~い(涙)」という看護師の訴えから今回のカンファとなった。

しかしここA病院のいいところは、そんな目に遭っても看護師が「せんせい、薬でおとなしくさせてください」だの「拘束してください」だの言わないところだ。同じ神戸の精神科病院でも、患者虐待を起こしたどこぞの某K病院とはえらい違いだ。それでも、ひとたびああいうことが起こると、主語を大きくしたがる人達が「精神科病院はヤバい!」と言う。まじめにやっている医療者はえらいとばっちりだ。

 

一日中ふさぎこみ仏頂面をしているHさんは、作業療法にも参加せず部屋にこもっている。それでも以前は、定期的にお兄さんが面会に来て、好きな食べ物を差し入れしてくれたりして、それを楽しみにしていたが、昨年お兄さんにもついに暴力をふるってしまい、とうとうお兄さんも来なくなってしまった。

 

カンファで、暴力が出そうな不穏な時は無理に処置や介助をしないでよく、人数のそろっているときに複数で行くことに決めた。また、暴力が出るシチュエーションについて記録してもらい、介助のやりかたについて、認知症のケアのユマニチュードを試してみることにした。認知症だけでなく、不満や不安を言語化しにくい人に安心してもらえたら、もしかしたら暴力も減るかもしれないという観点からだ。

 


それから、すべてのことから心を閉ざして一日を無為に過ごしていることについて話し合った。 すると、古参の看護師が意外なことを教えてくれた。

 

「あの人も昔はもっと明るく活動的でいい人だったのだけど…。井上陽水中島みゆきなどのフォークが好きで、ギターを弾いたりハーモニカを吹いたりしていたのだけど、もう何も興味がなくなってしまって…」

その看護師によると、数年前に車いすになってから、今のような拒絶的で無気力な誰とも話さない人になってしまったという。その後は自殺未遂も何回かあった。

 

これを聞いて腹立たしい思いでいっぱいになった。おそらく彼が車いすになったのは、元主治医のせいだ。抗精神病薬を多量に飲まされた結果、ふらつき転倒するようになり、転倒を防止するために車いす生活となり、足腰が弱ってしまうのだ。私が4年前にフランスに留学し帰ってきた時には、私の担当だった患者さんの数人が車いす生活になっていた。そして一度車いすに座るようになると、歩くように促してもなかなか元に戻らないのだ。それでも、1人おばあちゃんを車いす生活から元に戻すことができたけど。

 

どうにかHさんが少しでも以前のように日々の楽しみを取り戻せないだろうか。しかし本人にその気が全くなければ難しい。

 

私は彼のもとに行き、こう聞いてみた。

「来週、病棟でピアノ弾くんだけど、何か聴きたい曲はないですか。」

 

すると彼は意外にも、答えようとした。

しかし、長い間声を出さなかったせいか、声を出そうとするが声が出ない。

紙とペンを渡すと、彼はなんとか判読できるぎりぎりの字で、小椋佳吉田拓郎の歌を書いた。

 

いつもの拒絶でなく、曲名を書くということは、彼はまだこの世界の楽しみを完全に放棄したわけではなかったということだ。

 

よし、来週の火曜の2病棟のピアノコンサートは、彼の好きなフォークをたくさん弾いて、彼を泣かせてやる。そして心の分厚い防波堤に風穴を開けてやる。

 

K病院の虐待看護師たちよ、どうせならこうやって患者を泣かせてみたら?まぁあなたたちにはできないでしょうけどね。

 

今日のピアノ



ではまた。

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ピアノの邪魔をしすぎてついに締め出しをくらった猫。