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7月19日にＡ病院の3病棟でピアノコンサートをした。ピアノではなく正確にはキーボードだけどね。
その日付けで退職する看護師さんがいたため、急遽彼女のリクエストの「糸」も加え、なんとか40曲を1時間５分ほどで弾き切った。でもうっかり1曲「人生の並木道」を見落としていたのが後でわかり申し訳ないことをした。スマホの充電が1時間と数十秒で切れてしまったため、ラストのショパンの別れの曲は収録することが出来なかった。正直この曲を一番練習したんだけどな…というか、他の曲はエア練習ばかりで、せっかくリアル練習をした別れの曲をお聴かせできないのは残念であるけど、そんなに良い出来でもないので、ま、いっか。
弾き終わったら看護師さんから労いの言葉と共に、コーヒーとシュークリーム、プリン、どら焼きと差し入れの嵐で、こうして私のダイエットはいつまでも終わらないのである。まぁありがたく頂くんだけどね。
私はピアノについては子供の頃1か月程度習っただけでやめてしまい、以後は自己流でたまに弾く程度なので、自分がピアノがうまいとは全く思っていない。ペダルの踏み方とかもよくわからずになんとなくテキトーにやっている。映像みてもらったらピアノ弾いてる人にはわかると思うけど、弾き方とか、めちゃくちゃでしょ。だから、スタッフ達から「先生すごい！うまい！」と言われても、「ありがとー！」とは言うけど、あまり真に受けてはいない。確かに、音を聞いて採譜することもなしにすぐに弾けるという点では比較的稀な能力ではあると思うのだけど、上手くはないだろ…と、あまり誉め言葉を素直に喜べないひねくれた性格である。
そんな私が、今回もらって一番うれしかった言葉がある。看護師が私にこう話してくれた。
「患者さん達、すごく喜んでくれましたよ！あの5分とじっとしてるのが難しい〇〇さんも最後まで座ってたし、誰一人終わるまで席を離れなかったんですよ」
症状の重い慢性の統合失調症や知的障害、認知症の患者さんが多いこの病棟では、じっとしていられない患者さんが多い。患者さん達は正直なので、自分の興味がないことには見向きもせずに、すぐに立ち去ってしまう。なので、本当に喜んでくれたんだなぁ…とうれしくなった。私の患者さんの1人で、他人に対して不信感が大きく、いつも険しい目をして拒絶的で時に暴力も出る人がいる。以前の演奏会の時は、部屋から出て来てくれなかったが、今回は聴いてくれて、拍手もしてくれた。そして、それ以降、別人のように表情が柔和になり、たくさん話もしてくれた。音楽って、すごい…
作業療法士から「来週は2病棟もお願いしていいですか」と言われ、「また患者さんからリクエスト聞いておいてね」と快諾した。
ところが、コンサート当日と思われた月曜日、病棟からも作業療法士からも何の連絡もない。「あれ、今日じゃなかったかな？」と思いながらも、午後から実施する可能性に備えて、午前中に急いで仕事をある程度終わらせる。
結局、作業療法士から、2時からコンサートお願いしますと言われたが、リクエスト用紙をもらったのは開始5分前。開始前になって急いで患者さんからリクエストを聞いてきたようだ。2病棟は高齢者が多く、リクエスト曲の3分の１は聞いたことのないタイトルだった。
日頃（たぶん）温厚な私も、ちょっと腹が立った。超能力者じゃないんだから、5分で全く聞いたことのない曲数曲をどうしろというのよ！？
結局、知らない曲リクエストしてくれた患者さんには、「次回までの宿題にさせてね」と謝った。
私はスタッフに話した。
精神科に長く入院している患者さんは、私たちのように普通に仕事を終えたら家で好きなだけYoutubeなどで聴きたい曲を聴ける環境にはない。だから私は、彼らがリクエストをしたら、知らない曲でもYoutubeなどで曲を覚えて必ず弾いてあげることにしている。彼らにリクエストを聞いたら、彼らは弾いてもらえるものと思っているのに、弾いてあげなかったら、がっかりするよね。
この仕事は想像力が必要だ。隔離されると、拘束されると、どんな風に感じるか。好きな音楽が自由に聴けない環境にいるとはどういうことか。様々な自由が制限された人達の生活に思いをはせるということは、難しいことだね…
そういうわけで。
約1時間の病棟コンサートの様子を3回にわけてYoutubeでお送りしますが、チャンネル登録者、減るだろうなぁ。ま、いいや。長いので、気になる曲だけつまみ聴きしてくれてもうれしいです。
ではまた。
