上の美しい塗り絵は、ある患者さんが作業療法で仕上げたもの。本人の許可を得て掲載しています。
昨日の記事のHさん。誰ともコミニケーションを取ろうとせず、心を閉ざし、1日中表情険しく、ベッドの上で1日中過ごす。何にも興味を持とうとせず、誰とも喋ろうとせず、処置中に急にカッとなって手が出るため、誰も処置に行きたがらない。唯一の面会者であるお兄さんにまで手が出てしまったため、お兄さんも面会に来なくなってしまった。
そんなHさんの状況は少なくとも今年の6月くらいまでは変わらなかった。
今年の4月にB病院で院内感染が起こったため、4月から急に1ヵ月半ほどA病院で勤務できなくなり、おそらく何の説明もなされないまま主治医が一時的に変わったせいかHさんはこれまで以上に乱暴になった。そのため私の不在中に主治医となった男性医師が抗精神病薬を増やした。
6月にA病院に復帰すると、私は自分が急に不在になった経緯をHさんに話し、薬をもとに戻した。Hさんの興奮は一時的なものであり、精神症状の悪化とは考えなかったため、必要ないと判断した。
Hさんは話しかけても答えてくれないため、医療者もHさんへの説明を省いたりするかもしれない。でもHさんは話しかけたらちゃんと話を聞いている。薬を変えたり、薬を増やしたりするときには、患者さん本人にきちんと事前に説明するということを、疎通が取れない患者さんにはしない医者も多い。
その後、また病棟でピアノコンサートをした。前回はHさんをピアノで泣かせたろ、と思っていたが、Hさんがデイルームに出てきてくれず、空振りに終わった。
ところが、7月のコンサートでは、Hさんはデイルームに出てきてくれて、私はHさんの好きな曲を弾くことができた。
そのころから、Hさんに少しずつ変化が生じてきた。Hさんがデイルームに出てくるようになったのだ。
表情もまるで別人のような穏やかな顔になり、本を読んだり塗り絵をしたりしている。声をかけると、少しはにかんだように二言三言返事をしてくれた。
そのうち彼はぬりえに夢中になり、毎日精力的に塗り絵を塗るようになった。これまで塗り絵に興味を示した事はなかったみたいだけど、意外にも才能があると思った。
塗り絵を褒めると、彼はうれしそうに笑った。そして「ありがとう」と言った。
最近は塗り絵を介してもっとたくさん話をしている。暴力も出なくなった。一年前の彼とは別人だ。
彼に何をしたのか?
何もしていない。ただ、いつも対話をしていただけ。
精神科医は、急性期の患者さんには熱心に対応するけど、慢性期の患者さんに対してはあまり熱意を示さない。慢性期の患者さんは、長い年月のうちに病状が固定されてしまって、「何をしても変わらないから」と医療者は諦めてしまっている。
でも、そんな事はなかった。
私は対話の持つ力を信じている。
対話と言うのは、実は相手が言葉を返してくれなくてもできる。言葉だけが対話の要素じゃないから。
近いうちに、対話についてのお話をYouTubeチャンネルでします。
今日のピアノ
この歌聴くと、小津映画の原節子が三つ指をついてる映像が浮かぶ。昭和の女性は「家を出る」=「嫁ぐ」だったね。
— 肉q (@Nickq1121) 2021年10月4日
秋桜 / 山口百恵【耳コピ】ピアノ リラックスBGM/睡眠導入/精神科医が奏でるピアノ/Beautiful relaxing piano sou... https://t.co/z0D9LTFLpd @YouTubeより
ではまた。
Hさんの塗り絵(3枚)