「親ガチャ」に思うことを、つらつらと書く。

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(約2300文字)

最近よく聞かれる「親ガチャ」。親を選べないことを、ソーシャルゲームでゲームのキャラクターを得るときにガチャでランダムに当たり外れがあることになぞらえているらしい。

 

今だと、自分は一応親ガチャは当たりだったんだろうな、と思うけど、昔はそうは思っていなかった。なにしろ貧乏だったから、あまり物を買ってもらえなかったし、「安いから」とまとめ買いされたイワシをひたすら食べさせられていた。子供ってイワシ、どう考えても好きじゃないでしょ。当時、イワシのよく獲れる海から近いところに住んでいたからね。貧乏だわ、母はメシマズだわ、唯一気に入っていたところは、干渉しないことくらいか。

 

近所に、お金持ちの女の子が住んでて、グランドピアノが家にあった。いつもかわいい洋服を着てて、私が子供の頃にはまだまだ持っている人が少なかったテレビゲームをいち早く持っていたから、彼女の家に行って、よくゲームしたなぁ。うらやましかったよね。遊びに行くと、マドレーヌと紅茶が出てきて、花瓶にはバラなんか生けてあって、なにからなにまで自分のうちとは違っていたな。クリスマスなんかにも高価なおもちゃを買ってもらえてさ、でも家でそれを言うと決まって「人は人、ウチはウチ」と言われた。

 

それから大きくなって故郷をはなれたけど、姉が引き続き両親と住んでいた家を改築して住んでいたから、その土地を訪れたことがある。そのお金持ちだった女の子の家には、他の家族が住んでいた。どうやら、特にお金持ちでもなかったその家族は、浪費がたたってか、夜逃げをしたとのこと。噂なので本当かどうかはわからないけど、多額の借金があったとか。今、その当時女の子だった彼女はどうしているだろうか。

 

うちの親は「うちはビンボーだから…」と口癖のように言っていたが、どうやらそれほど貧乏ではなく、たんまりと貯めこんでいた。それは、子供の頃発達障害ゆえ、勉強が全くできず、経済的自立も結婚も到底できないであろうと思われた次女、つまり私のために貯められたお金であったが、くだんの娘はどういうわけか大人になってから不思議なことにいきなり勉強をしだして経済的自立を果たしたため、親はその金で実家の風呂を温泉にした。

 

こう聞くと、「親ガチャ成功」みたいに思えるけど、これは結果論であり、私は今の医者という地位にたどり着くまでに、好奇心からやたらとやんちゃな道を歩いてきた。若い頃の私の人生のすぐそばには、麻薬や覚せい剤に手を伸ばせる環境があり、ほんのちょっとの好奇心が過ぎて、あみだくじの右に選択するところを左に選択していたら、といつも思う。広島の繁華街でギャンブル店に勤務していた時も、ニューヨークでちょっとの間ホームレスになっていた時も、歌舞伎町で店長代理をしていたときも、危険はすぐ隣り合わせにあって、ちょっと間違えていたら私は、暴行を受けるか、麻薬中毒になるか、刑務所に入っているか、…そんな人生の可能性があったのだけど、たまたまうまくそのあたりはすり抜けて、そしてたまたま好奇心の延長で決めた医者という仕事のために、今は何不自由なく暮らしている。でも、もしバッドエンドだったとしたら、それでも「親ガチャ成功」と思うかな、…と思うと、結果論なのかな、とも思う。

 

でも、…昔はともかく、今の私はメンタルがとても強くて、なにがしかのバッドエンドのほうに行ったとしても、たとえば刑務所の中でたくましく生きてそうな気がするんだよね。だとしたら、このタフな私の土台を作ってくれたのは親だから、「親ガチャ成功」といえるのかな。

 

親の経済的レベルで「親ガチャ」の成功・失敗が決まるかというと、そう単純な問題でもない気がしている。

同僚の女医さんが最近すごく疲れてて、聞くと、息子の塾の入塾テストの準備で忙しいとか。その名門の塾は狭き門で、何度か落とされてるらしいけど、また挑戦するんだとか。その息子さん、小学2年生。医師夫婦の子供の進路は、その子が望む望まないにかかわらず一択だ。その子が苦労して、晴れて医学部に合格し国試にも通り、医者になった暁には、「あの時、早くから準備させてくれた親に感謝する」となるかもしれない。でも、あまり医者になりたいわけでもなく、結局何浪もした末、得たものは挫折と劣等感だけだった場合、「親ガチャ」成功とは思わないんじゃないかな。

 

あまり頑張りすぎることを小さい頃から強いられると、そりゃ医者になったり東大に入ったりするかもしれないけど、「ねばならぬ」と完璧主義に陥り、その後の人生のちょっとしたことで適応障害になるかもしれない。

 

うちの院長は特に塾などに行かず、「なんとなく家から近かったから…」と東大に入るより難しいと言われる超難関中高一貫校のN中に入った変人で、親になってから子育てもうるさくいわなかったら、娘は勝手に医学部に入ったけど、息子はYoutuberで生計を立てているとのこと。Youtuberは今は儲けててもつぶしがきかない、と眉を顰める人も多い職業だけど、院長は、「本人が楽しいんなら、いいんじゃない?」とのほほんとしている。それはもしかしたら、この息子なら、Youtuber失敗しても、何か他のことを思いつくだろう、と信頼しているのかもしれない。…何も考えてないのかもしれないけど。

 

私は職業柄、世間的に「勝ち組」と言われている人たちでも精神状態がぼろぼろになっている人を見ているから、子供が東大に入ったら、医者になったら成功とは思っていない。結果的にどんな人生になろうと、最低限食べていけて、自分で自分の機嫌を取れるようなら、ひとまず成功といえるんじゃないかな。

 

…特に結論はない。

 

今日のピアノ

 

ではまた。

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