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園児の送迎バス置き去りという、あってはならない事故があった。
本当に痛ましい事件だったが、私は、こういうことも起こるべくして起こっているという気がしている。
人間はミスをしてしまうのだから、ミスをしてしまってもリカバーできるシステムをつくらないといけないと思うのだけど、驚くべきことに、「自分はミスしない」と思っている人達も一定数存在する。
この事件が起こってから、ツイッター上では「こんなミス、ありえない。自分だったら絶対にこんなミスはしない!」という人がいたけど、事故を起こす人ほど、自分はミスをしないと思っているんだよね。
自分は事故を起こさないと思っているから、他の高齢者が事故を起こしてもかたくなに免許返上をせず、その結果痛ましい事故を起こす人もいるし…
結局、危機管理能力を高めるために一番必要な資質とは、「謙虚であること」だと思う。といっても口先だけ「いやいや私なんてまだまだ…」と謙遜するのではなく、自分も判断ミスをするかもしれない、自分も騙されるかもしれない、と日頃から思うことが出来るかということ。
私はADHD持ちなので、うっかりミスを克服するために医学部入試であえて、高得点争いになり少しのミスも命取りになるようなタイプの大学を選んだ。「じぶんはやらかすかもしれない」といつも思いながら生きてきたけど、幸い職場では看護師から「先生がADHDなんて、うそでしょ!」と言われる。実際、どういうわけか職場では明らかなミスをすることはほとんどない。そのかわり、一歩でも職場を出ると、まるでシンデレラの魔法が解けるかのように、鞄を置き忘れ、靴を変え忘れ、鍵を忘れ、スマホを忘れ、乗り換えを間違い、乗り越しをし、どこかにぶつかり、転び…とありとあらゆるポカをするのだけど。
そんなある日のこと…ていうか今週あったことなんだけど。
私はOT室(作業療法室)に拘束解除中の女性患者さんといた。
OT室には、普段は凶暴になるということで隔離室にずっと入っていたJ君と昨年から行くようになったが、なんと今はJ君とても落ち着いたので、一人でOT室で過ごすことも最近は出来ているのである。
拘束解除中の女性患者さんは、大量服薬をした統合失調症のKさんで、まだ衝動的に自傷行為に及ぶ可能性もあるため、目が離せないのである。
Kさんとあるテーブルに隣り合って座っていた時のこと。
ある作業療法士が木材と大きなのこぎりを持ってきて、それを私のいたテーブルの隣の列のテーブルに置いた。のこぎりはカバーをしておらず、むき出しになっていた。
それを置くと、彼はそののこぎりに背を向けてそこから離れ、何かを取りに、ある部屋に入っていった。私はその間に席を離れ、そののこぎりのところに行き、彼が戻ってくるのを待った。
私は戻ってきた彼に行った。
「さすがに刃物を置いたままこの場を離れるのはまずいんじゃないかな…?」
すると彼は、
「え?でも見てましたけど…?」
と答えた。
背中向けてたやん…と思ったけど、それは言わず、彼には、こののこぎりを置いた席にはすぐ近くに、精神年齢は5歳だけど体は大の大人の男であるSさん、それから、急に衝動的な行動をするかもしれないKさんがいることを話した。
作業療法士は、
「はぁ…わかりました。」とだけ言った。
たとえ彼が見ていたとしても、あれだけ離れたら、のこぎりに興味を持ち手に取るかもしれないSさんを制止することはできない。その場合、私は「Sさんありがとう、のこぎり、ちょっとみせてくれる?」と促すけど、もし慌ててSさんからひったくろうとしたら、Sさんはパニックを起こしてのこぎりを振り回すかもしれない。のこぎりをテーブルに置いたときに、彼はそこまで起こりうることを考えただろうか。おそらく考えていないだろうな。考えていたら、そもそもそんなところにのこぎりを置かない。
危機管理能力を高めるために一番必要な資質は「謙虚」ということ。自分も間違うかもしれないと思うことができること。そして、もう一つは、想像力があるということ。
雨が止んだ時に、閉じた傘を横に持ち、振りながら歩く人たちがいる。あの傘の先のとがった金属。ちょうど小さな子供の目を突くかもしれない高さにあるということに想像が及ばない人達。こういう人達は一事が万事なので、いつか大きな事故を起こすタイプと私は思っている。私はこういう人を見ると、わざと近くを歩いて傘の先に自分の体を当てて、大声で「痛っ!!」と叫ぶ、当たり屋をする。
痛ましい事故は氷山の一角で、それが起こりそうな環境はどこにでも転がっている。他山の石として、いっそう謙虚になろうと襟を正す思いである。…なんていって襟付きの服はめったに着ないけどね。
そして関係ないけど、今日からピアノチャンネル開始します。1日1曲配信します。
病棟ピアノコンサートよりは音がいいので、よかったら聴いてみてね。忙しいんじゃなかったんかいw…?や、めっちゃ忙しいよ。丸一日の休みがナッシング。でもピアノは1日当たりせいぜい15分くらいしか時間をかけず、編集は丸投げなので、忙しくても出来るのよ。古い曲も新しい曲もやっていく予定です。
ではまた。