なんかタイトルが「時をかける少女」みたい…
え?ちがう?「パンを踏んだ娘」みたい…え、知らない?まぁいいや。
塩もみか…
いや、砂糖…?
ここは肉qが通う、婚活のためのお料理教室。
…のわけがない。婚活とかそんなヒマあるか!?
月曜夜、当直室でインターホンが鳴る。
「先生、ストマ(人工肛門)の患者さんの腸が脱出して、出血しててパウチの中に血が溜まってて…(意識)レベルとバイタルは問題ないですが…」
うおぅ、消化管出血か?
現場に向かうと床に血が垂れてて、パウチいっぱいにむくむくと浮腫った腸が広がってて、確かに血が溜まってる。腸の持ち主の男性も看護師もうろたえている。
精神科当直医は何でも屋みたいなもので、いろいろやるけど、ストマからの脱腸は初めて見た。しかもめちゃくちゃ出とるやんけ!!
幸い出血は消化管出血ではなかった。どうやらパウチから腸が脱出する際にパウチのヘリで腸粘膜を擦り、その擦過傷からの出血であった。とりあえず、パウチをハサミで切って、腸を露出する。洗って傷口が他にないか確認。軽くガーゼで圧迫してみたが出血は止まっていた。
さて問題は、腸にどうやって体内にお帰り願うかだ。
脱腸自体はそれほど珍しくなく、程度がはなはだしくなければ、じっと横になっていれば自然に引っ込む。しかしこれはかなりの大きさで、待っていたところでそうそう簡単に戻ってくれそうにない。
ここは浸透圧である程度小さくするか…でも、傷があるから食塩水は沁みるよね。塩がダメなら砂糖はどうだろう。調べると2019年の論文で50%グルコース溶液を滴下して小さくするということをやっていた。通称「ナメクジ法」とな。看護師に言う。
「50プロツッカー(50%グルコース溶液)持ってきて。40秒でしたくしな!(パワハラ)」
グルコース溶液を看護師がシリンジ(注射器)に入れてくれたものを、大きなナマコのような腸に落していく。すると、大きかった腸が、イヤイヤと身をよじらすように動きながら、ちょっとずつ小さくなるではないか!私は感動して叫んだ。心の中で。
「見ろ!腸がナメクジのようだ!」
患者さんに「痛い?」と尋ねると「痛くない…」とのこと。
よしよしイイ感じだ。
私は看護師にもう1本砂糖水を持ってきてと言い、その間優しく腸をガーゼで包み、そっと圧迫しながら、ストマの入り口に導いた。
腸!!お腹へお帰り。ここはお前の住む世界じゃないのよ…
あんなに真っ赤になって怒張していた(ように見えた)腸は、すっかり勢いを失いおとなしくおなかに帰っていった。看護師が2本目を手に戻ってきた時にはほとんど腸はもとの位置に収まっていた。
患者さんは、「もういやだ。死にたい!人工肛門なんて付けたくなかったのに…」とつらそうにつぶやいた。私は処置をしながら、傾聴。「私はストマじゃないから、気持ちはわかってあげられないだろうけど、そりゃあ死にたくもなりますよね…。また気持ちがしんどくなったら、いつでも呼んでくれたら話を聞きますよ」と答える。結局これについては、傾聴するくらいしかできないからね。
翌日。
デイルームで彼が、
「昨日はありがとうございました!」と明るい顔で私にお礼を言った。
ストマの調子はどうなった?と見せてもらうと、またもや腸がデローンとこんにちはしていた…。
どんだけ社交的な腸なの!?
「一度、ストマ付けてもらったところに相談した方がよさそうだね」
「そうですねー」
驚くべきことに、彼は昨日とは打って変わってにこやかだった。
状況は何一つ変わっていないのに、「死にたい」という気持ちから、にこやかな気持ちに人は変わることができる。それはもしかしたら、何の解決もしてあげなかったけど、話を聞いてあげる、いつでも相談に乗る、と保証することだけでも、少しは気分が変わるものかもしれないな、と思った。やっぱ、Being with(そばにいること)って大事。
本日の動画。
ではまた。